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【種別】 魔術 【初出】 新約十七巻 【元ネタ】 あらゆる呪文の中でも特に有名な一つ ABRAHADABRA Wikipedia- アブラカダブラ 【解説】 かつてアレイスター=クロウリーが開発した術式。 アレイスターにはいくつか金字塔とされる魔術が存在するが、恐らくは世界で一番有名な呪文とされる言葉。 「オカルト信奉者を小馬鹿にする時」にさえ引き合いとして出されるほど有名かつ、浸透しているものである。 その効果はいわゆる呪詛返し。呪いを逸し、あるいは送り返すという、魔術の中では特別珍しくもないモノである。 元となった本家「アブラカダブラ」の主な意味は上記リンクにあるように「私の言うようになれ」というもの。 文面のままに解釈すれば黄金練成並みに都合が良い効果を持つが、古来は「病気の原因となっている精霊の支配を弱めよ」という 治癒の術式としての側面が強かったようだ。 まるで鏡でも置いたかのように呪詛をそっくりそのまま返す様は、まさに「私の言うようになれ」という言葉の通りとも言える。 呪詛それ自体は珍しいものではなく、地球には指向性を持たない妬み・恨みといった、あるいは人為的に魔術で攻撃性を与えられたものも含め、あらゆる呪詛が飛び交い何重にも折り重なっているのだという。 アレイスターが行ったのはそれらの飛び交う呪詛を掴み、軽くひねって、特定の対象に方向を向け直すだけ。要は単なる受け流しである。 呪詛の発生源はアレイスターではないので、逆探知されるリスクが無い。魔力を練る必要もなければ、そもそも魔術を使えると明かす必要すらない。 第一一学区に隠されていたA.A.A.オリジナルパーツには、逆三角形に一定のアルファベットを敷き詰めた印章の護符が仕込まれており、これを起動しようとした御坂美琴がこの攻撃を受けて大量に吐血。 込められた呪詛は「汝の死に雷光を与えよ」。 最強の電撃使いに見舞うにはあまりに皮肉の効いた『人間』の呪詛は、しかし御坂美琴を殺すまでには至らなかった。
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【種別】 人名(仮) 【元ネタ】 世界初の哺乳類の体細胞クローンである雌羊ドリーだと思われる Wikipedia-ドリー (羊) 【初出】 とある科学の超電磁砲第五十九話 【CV】 小原 好美 【解説】 【正体】【妹達との関係】 【その後】 【能力】 【解説】 「ドリー」の通称で呼ばれる、『才人工房』で生活している少女。 当時の警策看取や食蜂操祈、帆風潤子ら、『才人工房』に所属していた子どもたちと同様に、 靴下やブラ・キャミソールなどは身に着けず、黒色の手術衣のような服と、下着のショーツのみ着けている。 「中学生」ということになっており、容姿も中学校一年生ほどだが、 当時まだ小学生だった食蜂に「アナタ本当に中学生ぇ?」と笑われるほど、 人格や精神、口調、行動などの面ではかなり幼く、裏表のない性格。 外の世界を知らず研究施設内で育ち、友人もいなかった生活環境から人寂しいのか、 抱きついたり匂いを嗅いだりとスキンシップを好む。 『才人工房』から宛てがわれた警策を「みーちゃん」と呼び慕い、ただ一人の親友とした。 互いに裏表なく笑い会えるような親しい関係を続けていたが、 ある日偶然にも、警策に後述の「身体の傷」と生命維持装置を見られてしまう。 警策は「医療機関ではなく能力者開発施設の『才人工房』がドリーの「治療」をしている」ことに疑いを持ち、 機密データを調べ上げ、彼女の境遇に憤慨し研究者達に反逆するが、 捕らえられて暴行・監禁され、ドリーから引き離されてしまう。 事情を知らないドリーは「埋め込まれた機械を気味悪がられ、避けられた」 と解釈して強いストレスを抱えてしまった。 このストレスがドリー実験データに影響することから、『才人工房』は新たに食蜂を彼女に宛てがう。 その能力で食蜂を「みーちゃん」と誤認した彼女は、 しばらく食蜂と共に過ごした後、ついに肉体の限界を迎え倒れる。 倒れた彼女が研究者に引き取られる直前、食蜂に「おなまえ、きかせて」と頼み、 友達になってくれた「みさきちゃん」に「ありがとう」と告げこの世を去った。 (以前に彼女が食蜂に抱きついた際、髪の香りで「みーちゃん」ではないことに気付いた節があり、 また食蜂自身も「今の自分の能力では騙しきれない」と自認していた。) 【正体】 ドリーの正体は、御坂美琴のDNAマップを用いて試作されたクローンの少女。 すなわち『妹達』が生み出されるより前の「0号(プロトタイプ)」である。 上層の組織から『才人工房』に預けられていた。 その目的は「クローンを長持ちさせるための実験データの採取」で、 短命な肉体を維持する目的で、腹部付近から露出する形で身体に機械が埋め込まれており、 彼女自身の健康を顧みず、あらゆる薬物を投与してデータを採取されている。 胸部・腹部のほか、背中にも3つ大きな傷があり、 亡くなる間際には左足首付近や顔にも裂傷が確認できるが、詳細は不明。 また、クローン間での情報共有を行うネットワーク構築の実験体でもあり、 同時期に造られ、目覚めることなく眠ったままの『妹』個体に、 研究所で生活している『姉』個体の人格・記憶・経験がすべて転送されている。 つまりドリーは『姉』個体と『妹』個体の二人セットで、「0号(プロトタイプ)」として機能していた。 ただし、これらドリーに関するデータ採取の真の目的は『才人工房』には知らされていなかったようで、 ドリー関連の研究は「上から押しつけられた目的すらわからない人形遊びの一環」と称されていた。 【妹達との関係】 御坂美琴のDNAマップを用いて生産されたクローンという点は共通するが、 ドリーは、天井や布束らによる『量産型能力者計画』ではなく その先行技術調査の個体 であり、 従って後に生産された御坂妹をはじめとした20001人の妹達とは異なる点も多い。 ドリーの『姉』個体と『妹』個体で構築されていた実験的ネットワークも、 後に生産された妹達のミサカネットワークとは直接の繋がりや接続がなく、 かつ『姉』個体が存命だった時期とは時間軸も大きく異なっているため、 妹達はドリー姉妹の存在を認知できていないものと思われる。 (「海に行ってみたい」といったドリーの夢の一部が、 残滓やデジャブのような形でかすかに妹達に伝わっている程度にすぎない) なお、ドリー(『姉』)は、自分に『妹』が存在することや、 「たくさんのいもーとができる」ことは知っていたようだが、 自身の素性や実験の内容についてどの程度知っていたのかは不明。 また、妹達では、布束が監修した洗脳・学習装置を使用して、 生産された直後の段階で脳に様々な知識を強制的にインストールし、 喜怒哀楽などの感情についても一定の制限がなされていため、 例外的なミサカ19090号や打ち止めを除いて、人間的な感情が極端に薄い。 一方、ドリーは「本を読む」「人と接する」など、実際の経験によって 知識や感情・人格を身につけているようで、幼いながらも自然な人間性があり、 髪型や瞳の作画表現なども妹達や美琴とは異なっている。 ネーミングの似たミサカ00000号(フルチューニング)とは 別人である 。 【その後】 大覇星祭の事件の後、木原幻生の記憶を読んだ食蜂は、ドリーに関する本当の研究目的と 『妹』個体の存在、警策看取こそがドリーの親友だった「みーちゃん」だという事実を知る。 そして、眠ったまま研究機関で保管されていた『妹』は、食蜂と警策の手により解放され、 離れ離れになってしまった親友同士の『再会』を果たした。 亡くなる前の『姉』個体の髪型はショートヘアだったが、 再会して以後の『妹』個体は、現在の警策や食蜂と同程度のロングヘアになっている。 『妹』の存在を知った当初の食蜂は、 「『妹』は記憶と情報を共有しているだけでドリー本人ではない」としていたが、 人格なども含めほぼ完全に記憶が引き継がれている様子であり、 以後は警策も食蜂もドリー自身も、『妹』をドリーとして同一視して扱っている。 再会後のドリーと警策は、食蜂所有の隠れ家で 同棲生活 を送っている模様で、 ドリーと警策の二人、あるいは食蜂を含めた三人で外出することがあり、 超電磁砲T第25話では、「ウミにつれていって」という願いを叶える一歩として、 学園都市内の水族館へ出かけていたり、 獄門開錠(ジェイルブレイカー)編でも、興味を持ったドリーたっての希望で、 警策に連れられ共に第二少年院の脱獄トライアルに出場している。 『とある科学の心理掌握』にも登場し、警策とのほのぼのした日常が描かれる。 『禁書目録』本編には登場せず、食蜂が絡むシーンでごく稀に言及される程度であるが、 遅くとも12月の中頃(新約22巻リバース)までには、 オリジナルである美琴が「食蜂が関わっているプロトタイプ」の情報を掴んでいるようだ。 ただし、そこに至る経緯は外伝を含め作中では未だ明かされていないため、 食蜂が直接美琴に対してドリーの存在を伝えたのか、 それとも美琴本人が何らかの手段を用いて知り得たのかは不明。 なお、上述の脱獄トライアルに参加した際には、警策が食蜂派閥のメンバーに、 あの子のことはあいつ(食蜂)なりに伝えるタイミングを図ってると思うから といった見立てを伝えている。 【能力】 美琴や、後に製造された『妹達』と同様、能力は電撃使い。 なお、担当編集によると 妹達は基本的に異能力(レベル2)から成長できない ようだが、 ドリーに限っては 食蜂によるアシストで強能力者(レベル3)相当に到達している 。 脱獄トライアルの際には、警備ロボに狙われていた警策を助けるため、 自分とさほど変わらぬ体格の彼女を「お姫様抱っこ」して宙に浮いたまま、 長い髪をレール代わりにする手法で、同時に4つの小威力の超電磁砲を撃ち出す離れ業をやってのけており、 高い戦闘能力や身体能力も身に着けているようだ。 (この髪をレールにする設定は元々、美琴をデザインする際に没にされた設定の再利用である。)
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【種別】 武器・霊装 【初出】 新約二巻 【解説】 天草式十字凄教秘蔵の霊装。 西洋魔術の使用を前提とした日本刀型の霊装であり、歴史の表舞台には決して現れなかった大業物。 「純粋な切れ味のみで、軽い一薙ぎで一千枚ほど重ねた和紙の束を両断した」という逸話から、 『草紙断ち』の異名を持つ。 とあるしょうも無い事情から「真剣白羽取り」に挑戦することになった建宮斎字に対し、 竹刀、模造刀の次に用意された獲物。 五和が振り下ろす真剣に対し、 「内に秘められた才能とかを掴み取って主人公になる!」と開き直った建宮がどうなったのかは待て次回。
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0 アインソフオウル、アインソフ、アイン(000 00 0) 『0930』事件 0次元の極点(ぜろじげんのきょくてん) 1 先槍騎士団(1stLancer) 一〇本脚 2 二五〇年法 3 三重四色の最結界 4 四界 四大属性 四枚羽 5 五本指(ごほんゆび) 6 六枚羽 8 88の奇蹟 9 九人祝い(ナインサポート)
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19時01分 その後、さんざんな目に遭った。 コスプレ衣装は没収された。描写不可能な形相をした白井に追い掛け回され助けを求めた他の常盤台中学生は敵に周り、上条当麻は『学舎の園』の中を走り回った。休む暇も無く、針や二〇〇〇℃を超す灼熱やカマイタチが襲ってくる。周囲はそんな光景を目のあたりにしながらもいたって驚くそぶりも見せない。つまりこれは上条当麻が起こす『普通の光景』なのだろう。常盤台中学の能力開発の優秀さ感心しつつも敵に回すとこれほど恐ろしいものはないということを上条は実感していた。 もっとも、上条当麻の敵ではないのだけれども。 命からがら逃げ出し、通学路の途中にある人気の無い公園のベンチで少年は項垂れていた。 三時間ほど走り続け、彼女たちを撒いてたどり着いた先がこの公園である。いくら体力のある年頃と言えど足に疲労を感じていた。空はすでに夜。下校時間を過ぎているので人通りは極端に少ない。携帯で時刻を確認すると十九時を過ぎている。 この状況を端的に表すとこの一言に尽きるだろう。 「…不幸だー」 不幸な少年は真っ暗な空を見上げて呟いた。夜空に輝く流れ星(実際は廃棄処分された人工衛星のデブリ)に心奪われながら、先ほど自販機で購入した缶ジュースに口をつけた。 「ぶわっ!?不味っ!」 口に広がる不快な味覚に上条は思わず吐き出した。口元を袖で拭いながら缶シュースの銘柄を見る。 「ゴホッゴホッ…んー、何々…抹茶味のサイダー!?て何だこりゃあ!?しかもホットだし!缶コーヒーを買ったはずなのに、また入れ間違いかよ!」 さらには缶の種類、サイズ、デザインの色合いも似ており、薄暗い公園で確認できなかったのも無理は無い。 ようやく訪れた静かなひと時を堪能したかった上条だが、ジュース一本でその雰囲気はものの見事に崩れ去ってしまった。カクテルバーで粗茶を飲むようなものである。 「うう、不幸すぎますー」 「不幸不幸と言っておるとまた味あわせてやるぞ?上条」 後ろからふいに声をかけられた。 振り返ろうとすると頬に暖かいものが押し付けられた。缶ジュースである。 「おしるこは嫌いか貴様?私は気に入っているのだがな」 見覚えがある。『今』の上条当麻にとってはつい最近会ったばかりだ。 「バードウェイ!?何でここに!?」 「……ふむ。私がここにいることがそんなに不思議か?」 先日帰ったばかりだろ!とは言えなかった。ここは一年後の未来。あの時から会っていないとすれば、一年ぶりの再会といえる。 しかし、上条は妙な親近感を覚えた。 高級感ある紺色のコートに白のプリーツブラウス。デザインの良い薔薇の刺繍が入った黒のストレッチベロアパンツを履いていて大人びた印象を受ける。 だが、その容姿はまるで変わっていなかった。可愛らしい容姿にひそむ鋭い目つきが。 「ひ、久しぶりだなー。突然の再開に少し驚いているだけだよ」 「ああ、それだ。それだよ。その『ヒサシブリ』という日本語を忘れてしまってな。貴様にどう話しかけようか思考を巡らせていたところだ」 「…また何かあったのか?」 外見は十二歳前後の少女とはいえ、『明け色の陽射し』のボスとして君臨する魔術師である。 この学園都市に観光目的で来日していないのは明白だ。さらに彼女ほどの実力と地位を持つ者が入ってくる事自体、ただ事ではない。 バードウェイは上条の変化を察したらしく、ニヤァ、と口を大きく引きつらせながら言った。 「なあに、大それた用事ではない。確かにここに来た目的は仕事の為だが、貴様に頼らずとも安易に完遂できるモノだ。私が貴様を訪ねたのはkotatsuをもう一度堪能しくなっただけだ。ウチにもあれを取り寄せたのだがな。アンティークが並ぶリビングでは案外つまらなくて、鬱憤晴らしに部屋ごと吹き飛ばしてしまった」 そう言って軽く舌を出すバードウェイのイタズラ心満点の笑顔に、上条当麻はギョッとした。片目を閉じながら、いつの間にか右手に持っている杖をクルクルまわしている。何かの拍子で術式が発動するかもしれない。 「そ、そうですか。今はまだコタツは出していないんでー、サヨナッ!?」 ガシイッ!襟首をつかまれた。かなり強い力で。 「貴様、どこに行く気だ?」 悪意たっぷりの笑顔を浮かべながらバードウェイは言う。 「い、いやー、カミジョーさんはただ家に帰ろうとしただけですよ?インデックスが腹を空かせてるかもしれないから、早く家に帰って夕飯の準備をしなくちゃならないのでェッ!?!」 足のつま先を踏まれた。かなり強い力で。 「それは奇遇だな。私もまだ夕食が済んでいないんだよ」 「…つまり」 「そこまで言ってもまだ分からぬか。やはり貴様は私の下僕にしてやったほうがいいな」 「…つまりつまり」 「喰わせろ」 ハイ、ワカリマシタ。 「お帰りなさいとうま(当麻)」 そこに二人のエプロン姿の美少女がいた。 上条当麻がとった行動は一つ。カバンをズリ落とした。それはもうドコかの漫画みたいに。 19時23分 バードウェイと共に見慣れない自分のアパートに戻ってきた。第七学区にある高級住宅地で十四階建の高級マンション。セキュリティの優秀性は知らないが、仄かに彩られる和風庭園を一望できる玄関があるだけでもその高級感は理解できるだろう。管理人のお姉さんも気立てがいい人で上条とバードウェイを見るなり「あららー?当麻ちゃんったらー『また』?」などと話しかけてきた。その直後にバードウェイが上条の足を踏みつけた。学生寮であれば男女揃って部屋に入ろうとしようものなら即刻先生たちに捕まり両親に知らせがいく。 しかし、上条は気にすることは無いだろうと思った。 管理人はアルコールの匂いをプンプンと発し、目の焦点が合っていないほど泥酔していた。 監視カメラを見過ごすあたりが上条らしいが、少年はそんなことを考えながらエレベーターに乗り最上階へと昇った。財布にあった二枚の黒色のカードキーを見る。一枚は玄関口を開けるカードキー。二枚目は「一四〇二号」と書かれたカードキー。上条の家である。 そして彼は見た。 エプロン姿の銀髪碧眼少女と茶髪茶眼少女が笑顔で上条を出迎えるのを。 上条の後ろに立っていたバードウェイを見るなり二人の笑顔が凍り付いたのは言うまでもないだろう。 そして今に至る。 四人用にしては比較的大きいテーブルに男一人と女三人が座り夕食を取っていた。 ハヤシライスがメインディッシュでサラダにチーズフォンデュ。加えてインデックスには蒲焼の缶詰が二パックある。 「ちょっとアンタ、食べすぎ」 「これくらい普通だよ。ね?とうま」 「あ、ああ、今日は少ない方じゃないかな」 「え!?」 「禁書目録よ。それは太るぞ」 「太らないもん!」 そんなやり取りをしながら夕食は進んでいた。上条の箸もすすんでいた。ハヤシライスもチーズフォンデュも舌をうならせる絶品だからだ。上条は三杯目に突入し、インデックスに至ってはルーを5回もつぎ足している。ハヤシライスはインデックス。チーズフォンデュとサラダは美琴が作ったらしい。しかもこのチーズ。一口食べただけでも分かるが、そこらのスーパーで売っているようなチーズは使っていない。おそらくそれに加えて美琴の腕もあるのだろう。とても美味しい。 「どうどう?とうま。美味しいでしょ、私が作ったハヤシライス!」 「ああ、美味え。インデックスが作ったとは思えないくらい…」 「ふっふ~ん。そうでしょそうでしょ。とうま、おかわりいる?」 「ああ、頼む」 得意げに話すインデックスは上機嫌で上条の食器を手に取った。 ご飯をつぎにキッチンに向かうインデックスを薄目で見ていると御坂美琴から脇腹を横から肘で小突かれた。 割と強い力で。 「いてっ、どうした?」 「…何か言うことはないの?」 インデックスとは反対に不機嫌そうな御坂美琴。 流石の上条も察することが出来た。自分の料理の評価が聞きたいのだ。 「ああ、美味いぜ。これ、チーズと牛乳の割合と加熱加減が難しいんだよな。いや、これはワインか。チーズも良いもん使ってるし、今度レクチャーしてくれよ。俺も作りてぇ。こんな美味いやつは初めてだからな」 上条の絶賛の言葉を聞いて面食らう美琴。それから少し間をおいてワザとらしく、コホンと咳をはいて、 「…フ、フン。いくら褒めたってもうお替わりは無いわよ」 「そうか。そりゃ残念だ」 なっ、と口を噤んだ美琴は顔を赤めると腕を組んでプイッと顔を背けた。 何だコイツ?と上条は美琴の挙動不審に首をかしげた。まあ、美琴がおかしいのいつものことだと考えてその疑問を放棄する。 「このチーズ、グリュイエール・アルバージュとみた」 「っ!!貴女、結構通ね…」 「もしかして一〇〇グラム八〇〇円もするあの!?」 「ああ、スイス産の安物だ」 美琴の予想以上の料理に対する入れ込みとバードウェイとの金銭感覚の違いに唖然とする上条はギギギ、と首を回して美琴の顔を見た。 赤い顔をしたまま美琴は上条の方をチラチラ見て、何かに気づいたような表情をした。 「あ、口についてるわよ」 美琴はナプキンで優しく上条の口を拭った。彼女の思わぬ行動にドキッとする上条だったが、そういう彼女の顔にも人に言えないものがある。 「…お前もついてるじゃねーか」 上条は仕返しのつもりで美琴の口元に付いている米粒を取った。 ごく自然に、それを口に含んだ。 そして気づく。 「「あ」」 事実を確認するや否や二人はみるみる顔が赤くなり、すごい勢いで顔をそらした。 恥ずかしすぎる!二人は心情まで一致した。 しかし、そんなやりとりは向かい側からは丸見えだ。 「何だそのツンデレ娘は?貴様の下僕か?」 ガチャン!とテーブルに頭をぶつける美琴。食器に直撃しなかったのは幸いだ。 そう言うバードウェイは退屈そうな顔をしていた。 「ななななな何言ってるのよアンタは!」 「図星か」 「ンなワケないでしょ!私は当麻のこ、恋人なの!」 「なら愛人の間違いだ。上条の正妻は禁書目録だろう?」 「「はぁ!?」」 ハモる上条と美琴。 「同棲しているではないか」 「ど、同棲!?」 『居候』の間違いだと上条は言いたかったが、若い男女が一緒に暮らしていること自体そのように受け取られていても不思議では無い。むしろ居候という方が異常だ。だがそんな事はお構いなしに口論はますますヒートアップしていく。 「インデックスはそっち側にとって危険なものなんでしょ?当麻はお人よしだから匿ってるだけよ!」 「何を言っている。禁書目録はイギリス清教の人間だ。上条は『枷』としての役割はあるが、安全性としては教会にいるほうがずっと高い。実際は禁書目録の意思が反映されているだけで、ここにいなければならないという適切な理由はない。そうだろう?」 少し驚いたようにインデックスは肩を震わせた。手元にあったハヤシライスを落としそうになる。上条はそれをキャッチした。 「…そうなの?アンタ」 「う、うん。それはそうだけど…で、でも私はここにいたいもん!」 「なっ!前にアンタの居候の理由を聞いた時は半信半疑で仕方無いことだと思ったけど、ここにいる理由はそれだけ!?」 「短髪には関係ないじゃん!」 「大アリよ!私は当麻の恋人なのよ!他所の女が恋人の家に住んでるなんてそんなの認められるかぁ!」 「心は私のものだ、などという勘違いは愛人にはよくあることだ」 ピタリ、と美琴の動きが止まる。 「…バードウェイ、だったけ?よっぽど死にたいらしいわね。アンタ」 「貴様こそ誰に向かって口を聞いてるつもりだ」 頭からピリピリと静電気を放つ美琴に平然と答えるバードウェイ。何故か口ごもるインデックス。 非常にまずい。 今、ここにいる御恩方を紹介しよう。 一〇万三〇〇〇冊の魔道書を保有する禁書目録―Index-Librorum-Prohibitorum。 魔術結社『明け色の陽射し』の首領であり他の魔術師を圧倒する強大な魔術師、バードウェイ。 学園都市「超能力者(レベル5)」の第一位。『超電磁砲(レールガン)』の異名を持つ御坂美琴。 学園都市最強の「絶対能力者(レベル6)」第一位。世界の英雄。上条当麻。 一見、女性関係のもつれによる口喧嘩だが、実際は国際問題に発展しかねない火ぶたがお茶の間のテーブルの上で切って落とされようとしている。原因は上条の女性関係という些細なものだが、古代文明の戦争なども案外似たようなものが発端なのかもしれない―――――――― などと現実逃避している上条当麻だった。 「インデックス。アンタ、覚悟しなさい」 「それはこっちのセリフだ、愛人。貴様こそ立場をわきまえてモノを言ったらどうだ」 「アンタは関係無いでしょ。部外者は黙ってなさい」 「禁書目録には借りがあるのでな。貴様が彼女に危害を加えようとするなら容赦はせんぞ。愛人」 「っ!愛人愛人って違うっつってんでしょ!」 ビリビリバチィ!と御坂美琴の頭から高電圧が放たれた。同時に電子レンジと液晶テレビから黒い煙が出る。 上条当麻以外は席を立ってお互いにらみ合っている。明るいムードから一転、いつの間にか一発触発の緊急事態に陥っていた。 どうしよう、と上条は考えていた。 事の発端はバードウェイの下僕発言でありそこからインデックスの居候の理由に矛先が向き美琴が上条の彼女であってインデックスの居候を快く思わないからでありバードウェイの愛人発言が美琴の神経を逆なでして今にも食ってかかりそうな勢いになってインデックスをかばうようにバードウェイが立ちはだかっており何でこんなことになったかというと上条当麻が御坂美琴という彼女がいながら年頃の美少女ことインデックスを家に置いているからであり、 結局、事の発端は「上条当麻」に帰結するのだ。 しかし、ここで上条が謝ったとしてもインデックスか御坂美琴の意見を聞くかで大きく事態が変わってしまう。しかし、上条はこの食事を楽しみたかった。だから何気なく呟いたのだ。 「お前ら、いいかげんにしろよ」 「っ!!!」 上条の言葉に三人の表情が凍り付いた。 あれ? と首をかしげる上条。 三人は渋々と席に着きながら、 「…そうね、ちょっとどうかしてたわ私」 「…フン、まあこれはお主の問題だ。客人の私が口を出すのはおこがましいな」 「…私はここにいたいもん」 皆、恐縮している。 一番恐縮しているのは上条当麻本人だ。 (あれー!?何で皆さんそんなにビビってんのー!?『うるさい!っていうかそもそもアンタが悪いんでしょうがあああ!』的展開を予想していたんですが!?) 「ごめんさない。インデックスがここにいる理由、前にも話し合ったもんね」 「気にしてないよ、美琴ちゃん。とうまの彼女なんだから、私のこと気にしないほうがどうかしてるもん」 「…中々、複雑な恋愛事情だな」 「……………………………………………………………この空気は一体何なんでせうか?」 「そ、そういえば、当麻。当麻は何で私の作った料理が分かったの?」 いきなりの話題転換。この暗い雰囲気を打破するために美琴があわてて上条に話題を振った。バードウェイもインデックスも苦笑している。 しかし、この期待を見事に裏切ってくれるのも他ならぬ上条当麻だ。 「んー…美琴の味がしたから、かな」 皆、絶句した。 硬直から五秒後。最初に口を開いたのはインデックスだ。 「とうま、それは一体どういう意味かな?」 「えっ!!!?い、いやそのっ!別に深いイミなんて無くってですね!?言葉のアヤというかなんというか!」 「そんなに挙動不審なのはどうしてなの!?ちゃんと説明してほしいかも!!」 怖い。向かい側の席でインデックスがとても怒ってらっしゃる。整った顔立ちをしているので余計に迫力があった。美琴は、というと上条の隣で耳まで赤くしてうつむいている。 バードウェイに目を見やると、これまた退屈そうに頬づえをついていた。 「禁書目録よ。言わずもながら分かるだろう?」 「!!!な、何を!?」 「…つまり、そういうことだ。なあ?御坂美琴嬢?」 「う、うん」 小さな声で、顔を真っ赤にした美琴はコクリと頷いた。 …短い人生だったな。 「とうまあああああ!いつ、どこで短髪に手を出したのおおおおおおっ!今日という今日はとうま殺す!カミコロス!私の腹の中で溶けちゃえええええええ!」 「では私がチョコ味にしてやろう」 「そんな魔術があんの!?っていうか皆で食事の続きをしましょうよ!結局こういうオチになるわけ!?やっぱ不幸ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」 「ちょっとー!!私の当麻に何すんのよー!!!」
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ア行 カ行 サ行 タ行 ナ行 ハ行 マ行 ヤ行 ラ行 ワ行 A~Z
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この指止まれ版こむちゃランキング2013年3月30日付結果 参加者4名 投票曲数33曲 順位 変動 曲名 アーティスト ポイント 投票人数 最高位 タイアップ等 10 ↓3 ドラマチックマーケットライド 北白川たまこ(洲崎綾) 70 1人 4位 アニメ たまこまーけっと OP 10 再 LΛST RESOLUTION Emblem of THE UNLIMITED 70 1人 4位 アニメ THE UNLIMITED-兵部京介- OP 10 再 SELF PRODUCER 茅原実里 70 1人 4位 アニメ お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ OP 8 ↓1 サクラミツツキ SPYAIR 80 1人 3位 アニメ 銀魂 OP 8 ↓1 Silent Snow 花澤香菜 80 1人 3位 7 → Crimson reve 橋本みゆき 90 1人 2位 ゲーム RE LOADED CARMINE OP 6 初 VAMOLA!キョウリュウジャー 鎌田章吾 100 2人 4位 特撮 獣電戦隊キョウリュウジャー OP、こむちゃ9位 5 ↓1 夏の約束 堀江由衣 100 1人 1位 アニメ DOG DAYS ED 4 ↑1 ススメ→トゥモロウ 高坂穂乃果,南ことり,園田海未 120 2人 3位 アニメ ラブライブ! 挿入歌 3 → Shining Star-☆-LOVE Letter 井口裕香 180 2人 2位 劇場版 とある魔術の禁書目録-エンデュミオンの奇跡- イメージソング、こむちゃ1位 2 → Shiny Blue ゆいかおり 200 2人 1位 ゲーム ~聖魔導物語~ OP 1 V7 W Wonder tale 田村ゆかり 270 3人 1位 アニメ 俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる ED、こむちゃ2位
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1 不完全な静寂が延々と続く。僅かに聞こえるのは、か細い呼吸音と足音。 日の光が完全に遮断され、黒ずんだ壁に囲まれたこの部屋で一人の少年が 落ち着かない様子で、コツコツと乱れた拍子を現代的なデザインの杖で奏でながら 右往左往していた。頭頂から靴の末端まで白一色に染まっている彼は この一室では浮いて見える。 少年の名は一方通行。その整った顔からは嫌悪、焦燥の表情が絶え間なく 作り出されていた。動揺が隠せないからだろうか、寒気を感じる。 (……結果はまだ出ねェのか?) その目線の先には、少し薄汚れたベッドで眠りにつく少女があった。 少女の名は打ち止め。かつての天真爛漫で、元気を振りまく姿は 一切その様子からは想像出来ない。以前の衰弱しきった病態から抜け出せたのが せめてもの幸いだったが。 (やはり畑違いの人間じゃこの苦痛を取り除く手段はわからねェってワケか) 仮の答えを弾き出した一方通行は自分の考えを整理していく。 あのヒーロー……いや、あの『上条当麻』との再戦に破れた後、 奴が打ち止めに右手で触れた瞬間、打ち止めとエイワスの繋がりは一時 断ち切られた。少なくとも生命の危機からは辛くも逃れられたようだ。 その後二人は上条達が率いる軍用車の群から離れ、金髪碧眼の男と同行することと なった。その者はオッレルスと名乗り、打ち止めの体を検査してみようと 提案した。一瞬罠かと頭をよぎったが、例えそうだとしても、 打ち止めに害意を加えない限りは利用出来ると踏んで、一方通行はそれを承諾した。 第一、あの上条達に誘導され出会った人物だ。おそらく学園都市の傘下に属す者では無い。 そしてそのままこの建物に辿り着いた。外観からしても相当老朽化した建造物とわかる。 今、オッレルスは席を外している。おそらく別室で文献を漁っているのだろう。 (だとしても、俺のやるべき事はもう決まってる。このガキのためなら……) あの一戦から一方通行の思考はより尖っていった。今までの自分との剥離、 根源とも云うべき心の主柱の変化を自分自身でも確かに感じていた。電流が走ったかの様だった。 これまでの彼は『自分がこうあるべき』、『自分が果たさねばならない事』といった 義務感、使命感、自分勝手で自己満足的な、まるで子供が思念する目標を掲げ 動いているだけだった。あの少女が突きつけた言葉の通りに。 それだけでは結局は何も変わらない。身勝手な理想論を無理矢理描き、その実現に 走り続けるだけではこれより先に控える試練は絶対に乗り超えられない。 (だったらどォする?) ならば、『自分がなりたいもの』、『自分が本当に成し遂げたい事』と心が叫ぶ 直接な願いや直感に従えばいい。無粋な言葉で語れば、夢、などとも言おうか。 そうすればもはや心身は揺るがない。もう心がどんな残虐な所行に引き裂かれても、 体の四肢を全て捻り切られようとも、どんな痛みにも耐えられる。突き進められる。 偶然にも、この理念はあのツンツン頭の少年の行動指針と重なる一面があった。 それに気づかない一方通行だったが、その転換に確実な手応えを感じていた。 ーーそうしてその後、彼は気怠そうに、明らかに意識してふと何気なく振り向き、こう呟いた。 「で、何でオマエがここにいンだァ?」 その背後には、かつて彼の心を打ち砕いた茶髪の少女が微笑みながらちょこんと座っていた。 少女の名は番外個体。第三次製造計画によって生み出された、新たな『妹達』の一人だ。 2 「やっほう。やっとミサカの存在を受け入れてくれたね。第一位。ずっと後ろで ひたすらアピールを繰り返してた努力が実って嬉し涙が出そうだよ」 愛想を振りまく天使の様な笑顔を見せつけながら番外個体は少年に抱きつこうと迫って来る。 一方通行は溜息をつかざるを得なかった。何せ自分と打ち止めを殺しに馳せ参じたはずの 人物が、背後から吐息を吹きかけたり、体に触れて微弱な電流を流してきたりするのだ。 逆に関わりたくなくなるのが当然の反応だろう。 「あのなァ、オマエが抱えてた任務とかが頭からスッパリ抜け落ちてンならまだしも、 どうして俺の側に平然といられンだ?俺がオマエにナニやったか覚えてねェのか?」 当然の疑問をこのアバズレ少女に投げかけてみるが、その回答はまたおかしな物だった。 番外個体が、その意外と膨らみがある胸を張って答える。 「もちろん覚えてるよ。第一位がミサカのこの美顔に何度も豪打したのも、ミサカの使命も。 でもそれらの事情はこの番外個体における現在の行動には全く干渉しない」 どういうことだ?今一不透明で番外個体の本心が読み取れない。話を続けて聞くと、 「ミサカは超能力者第一位の一方通行と、ミサカネットワークの統制者である打ち止めを抹殺し その後ミサカ自身も『セレクター』によって処分されるはずだった。でも第一位の『温情』に よって偶然生き延びてしまった。破壊された『セレクター』には学園都市がミサカを監視、 制御する機関が備わっている。それが無くなった今、もはや誰もミサカを縛る事は出来ない」 『温情』という言葉に引っかかりがあった。一方通行は確かにあの瞬間だけは番外個体を救おうと した。しかしその感情と行動は、この世界への憎悪で全て吹き飛んでしまったわけだが…… 「つまり、ミサカは第一位の手によって自由になった。だからもうミサカはかつての目的を捨て、 新たに築かれた欲求に従って動く事にした」 ピクン、と一方通行の心臓が反応した。何か嫌な予感がする。 「ミサカは、あなたに興味が湧いた!」 番外個体の顔が彼の唇に触れそうになるまで近づき、そう言い放った。 「打ち止めというちっぽけな存在のために学園都市に逆らい、妹達という恨まれてもおかしくない 群衆のために奔走し続ける、論理的に考えてもおかしいあなたはもうミサカの目を釘付けにした。 だからずっと着いていく。ミサカが第一位を寸分まで理解するまで。 あ、こんな可愛いミサカを傷物にしてくれた責任も取ってもらおうかな。だからミサカの事も 大事に扱ってよ。そこで寝てるあの打ち止めの様にね!」 そう熱弁した直後にまたもや番外個体は一方通行を抱擁しようとダイブしてくる。 これは、好意からくる行動とは、違う、と思う。負の感情が芽生えやすい番外個体が ここまで自分を好くのには、どうしても違和感を感じる。自分を憎んでいたのではないのか。 ……とつい勘ぐってしまう。裏があるんじゃないか、そんな気がしてどうもこいつを 受け入れられない。うざそうにあしらってから、話題を変えた。 「そォいや俺はオマエをさんざん痛めつけたンだったな。なら何で外傷が一つも 残ってねェんだ?『肉体再生』なンざ使えるワケでもねェし、俺はそこまで 治療した覚えは無いンだが」 確かに今の番外個体は不思議な事に一方通行が負わせた傷も一切無く、健康そのものだ。 叩き折ったはずの腕の骨すら完治している。そんな状態で傷物とか言われても釈然としない。 ニヤニヤしながら、艶かしく手で全身を伝わせつつ答えてきた。 「『暗闇の五月計画』を覚えてるよね?第一位の演算パターンを元に自らの『自分だけの現実』を 最適化させる実験があったんだけど、その中には第一位のベクトル変換能力を応用して 生体電気を制御し、自分の細胞復元速度を早める能力データが残されていた。 あなたを殺す際に『書庫』にアクセスする機会があったから、それを知って流用したの。 体内の電子情報を操れるミサカなら、あなたとほぼ同じ精度で体を癒せる。 理論上なら他の妹達にも実行可能だったろうけど、大能力者であるミサカ以外は 実戦投入は無理だったかもね。そもそも絶対能力進化実験の障害になるから 知らされていなかっただけかも」 「ほォ。ちゃんと理由があったンだな。だったらこのガキも類似した事が可能なワケだ。 そいつを引用してこいつの中の異変を取り除けねェのか?」 そろそろ余興とも言える会話は打ち切るべきだろう。時間は待ってくれない。 ここで一方通行は核心に触れられるよう、また話を移行させた。番外個体も重要だが、 それより優先すべき事は山積みだ。何より打ち止めを救う可能性があるなら何でも試す必要があるからだ。 だが、番外個体は返答せずに頬をぷくーと膨らまし、そっぽを向いた。 自分より打ち止めを重く扱った事に不満があるらしい。面倒な奴だな、と思いつつ 番外個体に正誤を問おうとした瞬間、 一方通行の腹下部に重圧が掛かった。 3 この合図はここに来た、いやこの男にあった瞬間にもあった。明らかに異質な反応。 かつて一方通行が海原と接触した時に感じた物と同じだ。 オッレルス。打ち止めと一方通行(と番外個体)を迎えいれた人物だ。 胡散臭さは感じない。むしろあらゆる人生の困難を全て切り抜けてきた経験がその肌に 刻み付いているかの様だった。その威厳はそこらの一般人ではまず発揮出来ないだろう。 そんな彼が羊皮紙の束を抱えてこの部屋に飛び込んできていた。待ちわびた。 「やっとこの子を治癒する手だてを思いつき、術式を構築出来たよ。君達に説明すべきだろうから 包み隠さず話そうと思うが、いいかな?」 術式などとあまり耳に入った記憶の無い言葉を聴いた気がしたが、もはやどうでもよい。 このロシアまで渡って来た目的がやっと成就するのだ。一瞬の歓喜と焦りを感じた。 一方通行はその餌に食らいつく。 「ああ、よろしく頼む。さっさとこのガキを楽にしてやりてェからな」 「まぁ待て。その前に俺は君達の名前も抱えてる事情も完璧には把握出来てない。 順序が逆になったが、そこら辺の背景を大雑把に教えてくれ」 確かに出会ったすぐからオッレルスは検査と思案に入ってしまったせいで説明不足に なってしまった。この男の、人を救うのを優先する気質が先行したからだろうか。 とにかく解説を早く済ませて打ち止めを直して欲しかったが、 「はい!ミサカとこの人、一方通行は夫婦でこの子を助けたくてここまで来たんです」 (…………は?) 横槍が入った。いつの間にか番外個体が一方通行の片腕を抱きしめつつ懇願していた。 「学園都市の医療技術でも、ミサカとこの人の間に生まれたこの子の命を持たせられないのが わかって、どうしていいかわからなくて全国を経由してこの辺境まで行き着いたんです。 お願いです!ミサカ達はどうなってもいいから、何でもしますからこの子を苦痛から 解放してやって下さい!」 涙ぐむ仕草まで仕込んである。傍目にみれば本当に番外個体や一方通行と、打ち止めが 親子だと誤解してしまいそうな程の迫真の演技だった。 (……こ、こいつ人が黙ってりゃ嘘をペチャクチャ吐きやがって……!?) ある事無い事吹き込む番外個体のデマカセを正そうと、声を荒げようとする一方通行だったが そこで異変に気づく。 声が出ないのだ。 妙だ。まるで人為的に喉が働かなくなった感じがする。何かがおかしい。思わず番外個体の 方を向くと、オッレルスに見えないように、小悪魔的な含みを持つ笑顔を一方通行に見せつけていた。 そこで原因がわかった。こいつのせいだ。体内に残留した『シート』で一方通行の首元に 装着されている電極を強制的に誤作動させているのだ。 (な……言語機能を俺から奪いやがったのか!?器用なマネしやがって!) といっても、常識的に観察すればこんな虚言などすぐにバレる。普通は信じるワケが無い。 常人なら「いや、それはありえない」と即座に突っ込む程度のウソだ。 と、オッレルスの反応に期待する一方通行だったが、 「そうか!それは難儀だったね。大丈夫だ。君たち親子の平穏が再び訪れるよう、俺も全力を尽くすよ!」 本気で信じちゃったよこの人。そういう変人だったのか。 こんな奴に打ち止めを預けた俺が間違ってたのか。いや、馬鹿だからこそ上条はこいつを推薦したのか? 歪曲した首肯があまりにも馴染みすぎている。もう訂正するのも諦め、事態が好転するのを待つ事にした。 自分が滑稽な扱いを受けてそれで済むなら大歓迎だ。今日までもそういった色眼鏡で見られてきた。 そうしている内にオッレルスが口火を切った。 「よし。必要な情報は揃ったし、本題に戻るとしよう。……申し訳ないが、 奥さんは席を外してくれると有難い。君が娘さんを心配しているのは重々理解してる。 しかし、先に彼だけに述べておくべき事が少しだけあるんだ。短時間で済む。いいかな?」 想定外の滑り出しだった。同時に危機感が一方通行の脳裏に行き渡った。これは艱難の暗喩だ。 打ち止めの治療に何らかのデメリットがあると、暗に示している。考え過ぎであってほしい。 そうとも知らず、口車に乗せられた番外個体は意外にもすんなりと申し出を受け入れ、 「そうですか!確かに懸念が残りますけど、どうしてもと言うなら指示に従うまでです。 この子を頼みます……」 と着飾った決まり文句を漏らしながら、ドアを開けて廊下に出た。同時に妨害電波も 次第に減退していき、一方通行は平常に戻った。ここからが本番だ。固唾を飲んで、宣告を急かした。 「アイツが漏らした通り、このガキは科学の枠に留まる技術じゃどォにもならねェ。 この病状自体が学園都市の差し金で惹起したからだがな。それで俺達は奴らと反目した。 そこで『全く別の法則』とやらが必要になると聞いた。それを求めてここまで来たワケだ」 「先刻までの戯言は彼女に真実を知らせない為の詭弁だよ。混乱を招くからな。 君の抱える問題も学園都市の策謀もこの子に降り懸ってる異常の根源も承知している。 あのアレイスターの聖守護天使がこの子を踏み台にして顕現したんだろう。 正確にはミサカネットワークによってAIM拡散力場を前導させるのを 強引に打ち止めを『始動キー』として、持続させている」 一方通行は目と耳を疑った。この男は今、打ち止めの病状の原因を明かすどころか、 学園都市が抱える闇そのものの正鵠を射った。門外漢かと思いきや、一方通行以上に現状を理解している。 どこからそれほどにまで正確な情報を知り得たのか、疑問は残るが、 ならば話は早い。先程の発言に引っかかりと底知れぬ不安を感じるが、今は前に進むしかない。 「そこまで把握してンのなら、さっき口走った『治癒』も的確なンだよなァ。 だったら、ここまで焦らす必要は毛頭無ェはずだ。……何を隠してやがる?」 一番の不安材料にメスを入れた。打ち止めの『治癒』に弊害があるならば、全て排除するまでだ。 だが、その弊害についてはこの男は黙ったままだ。まさか、そこまで事態は深刻なのか? オッレルスは重い口を開いた。 「『治癒』の方法は二つある。一つは最終信号をミサカネットワークから断絶させる事だ」 何? 「聖守護天使は最終信号を『始動キー』としているが、本来なら顕現した時点でミサカネットワークを 間借りするだけでAIM拡散力場を永続的に連結し続ける事が可能だ。 しかし、どうやらアレイスターは念には念を入れて『始動キー』を常に待機状態に設定し、 万一聖守護天使が崩壊したとしても、すぐまた現世に回帰できる体制を取っているようだ。 故に最終信号に、極難解で不安定な演算を常に無意識の内に反芻させるような仕組みを植え込んだ」 つまり、エイワスとの戦闘時に奴の『核』を弾いたにも拘らず平然と復活したのは、 打ち止めに『始動キー』を埋め込まれた証拠だという事か。 それが理由。最終信号としての役割を果たすため、望んだ訳でもない不条理な重荷を背負わせ続ける。 彼女は何も悪い事をしていないのに。一人の人間なのに?どうして道具としてしか彼女を扱わない? 「……じゃァ、その仕組みを解けばいいんだろォ?どうしてこのガキをミサカネットワークから 切り離すなんて解決法が取られるんだ?」 打ち止めがミサカネットワークから外される。即ち、ミサカという大脳からの脱却とは 妹達との意識疎通がされなくなり、情報や記憶の共有が途切れる事を指す。 いや、ミサカネットワークの司令塔である彼女がいなくなれば、学園都市は同機能を持つ新たな個体を 刷新するはずだ。それか、それこそが伴う痛み、なのか? 「『始動キー』は、最終信号個人の脳だけではとても抱えきれないほどのヘッダを持つ。 つまりこの子の頭で処理出来ない部分は他の妹達に分割され、代理演算をさせるように 最終信号が上位命令文を妹達に送りつけているんだ。即ち、最終信号が上位命令文を出せない状況に なれば『始動キー』は不完全な計算式の固まりと化し、最終信号に埋め込まれた『始動キー』そのもの も自然と意味をなさなくなる。こうなれば後は学習装置で治療出来るレベルまで落ちる」 ここまで判明しているなら、問題は解決したと同義ではないか。一方通行はここでようやく 心のしがらみが和らぐのを自覚した。 しかし、現実はまだ一方通行と打ち止めを許さない。 「ミサカネットワークと最終信号を切り離すにあたって、俺の術式を施すわけだが、 ここで一つの欠点があるんだよ。最終信号の超能力を人為的に消し去る必要があるんだ」 ……つまり、科学以外の手で能力を消滅させる。 電流を操れなくなれば打ち止めはミサカネットワークと繋がらずに済む。 『全く別の法則』に乗っ取って。 それは、その結果が齎すデメリットは、 「……彼女の言語機能と計算能力を削ぎ落とす。今の君の様に、だ」 4 死角からの残酷な事実。覚悟を背負ってここまで来た。打ち止めのためなら、 自分の信念も生き様もプライドも、自己の破壊に当て嵌まる犠牲なら、それらを受け入れる覚悟を。 だが、実際の代償は覚悟だけでは足りなかった。 つまりは、打ち止めを救うなら打ち止めそのものを犠牲にしろと言っているのだ。 一方通行は嘲った。打ち止めを敵に回してでも戦う決意があろうとも、 打ち止めの属する世界をぶち殺してまで、打ち止めを守り抜く手腕が無かった自分を。 言語機能、計算能力への後遺症。その重みは苦渋を洩らすほどわかる。 一方通行本人も、あのカエル顔の医者に与えられたチョーカー型電極によって ミサカネットワークの補助を受けなければ廃人に限りなく近い存在になってしまう。 打ち止めがそうなったら?もう光は途絶える。彼女をミサカネットワークから切り離す為の処方だ。 一方通行と同じ埋め合わせは不可能。待つのは物事を楽しみに笑う彼女、 自分にだけ向けてくれる、無邪気で、バカらしくて、こっちも笑い飛ばしたくなる太陽の様な笑顔、 それらが抉りとられた灰色の世界だ。 絶望が境界線を逸脱して光の世界にまで浸食してくる。その光の中心にいるはずの打ち止めに向かって。 だが、頭の中は驚愕するほど冷静だった一方通行はどうしても拭えない考えに至っていた。 (イイじゃねェか。簡単だ。この『治癒』が終われば、少なくとも学園都市のクソったれどもは もう打ち止めを奪ったり、始末しようとはしねェはずだ。打ち止め本来の役割が白紙になるからな。 言語機能?計算能力の低下?それだけの犠牲で済むなら大満足のハッピーエンドで終幕だ) そう、自分が頷いてしまえば。もう終わるのだ。戦いも、打ち止めの災難も。 自分の脳裏に焼き切れるまで刻み付けた、打ち止めのいる光の世界を守るはずの、自分の覚悟さえも。 「どうするんだい?この『治癒』なら10分で準備できる。やるなら今しかないだろう。 学園都市にこの末路を漏洩させないためなら、ここで打ち止めの『自分だけの現実』を無くすんだ」 オッレルスが何かほざいている。学園都市?そんなものもあったっけ? 放心状態だった。だが理性はこれに従えと煩く後押ししてくる。やれ、やってしまえ。 でも、でも、それでいいのか?一方通行は自分の脳、心、魂に真義を問うた。 自分の本心。未来の夢。それは、 「ォ断りだ」 はっきりと言い放った。誰かに命令されたワケでもない。熟孝して導いた論理的に正しい結論でもない。 「……このガキの生涯まではオマエも片耳でしか聴いた事ねェだろォ?こいつはな、 本来なら本当に小せェ存在のはずだったんだ。普通に大きくなって、ダチ見つけて遊んで、 黄泉川や芳川に恋愛相談なんかして、騒がしいモンには野次馬気分で覗きにいって、 それで最後に自分から笑う。そんなどこにでもいるただのクソったれの子供でいられたはずなんだ」 一方通行は信じていた。あらゆる闇や暗躍するクソ共を駆逐しきれば、打ち止めもただの少女として 生きられる。そんな純朴な幻想を。 それが本心だった。そうしたかった。ウソは無い。本当にそうしてやると無意識に願い続けていた。 だから、引き下がれない。善人だろうが悪党だろうが関係ない。 一方通行という個人のみが持つ、譲れない思いだった。 「そいつを乱すようじゃァ、納得出来ねェンだよ。言語機能?計算能力?ンなモン捨てなくても 門は開いてゆく筈だ。もし無かったとしても、俺が学園都市最強の力で風穴開けてやる。 ……だからオマエの申し出は受けられねェ。すまなかったな」 一方通行は頭を下げた。オッレルスも打ち止めの心配の末に この『治癒』を提案したのだ。無下にはできない。本来なら人に会釈する一方通行などありえないはず。 それを実感して、オッレルスは深い笑みを浮かべて頭を上げてくれと言い、 「そう決断すると予想してたよ。そうだ。どうせ未来を切り開くのなら より輝かしい方が良いに決まってる」 未来か。 「ンじゃ、俺らはここにはもう用は無ェな。夜が更けたら出てくが、それでイイよなァ? こっちもか細いヒントを幾つか持ってるしな。そいつを手がかりに動くさ。世話になった」 「ふむ……君らしくない。少し前の要点を忘れてないか?」 少し前?第一『治癒』の壮絶さに戦慄したせいか、些細な情報を抜け落としたかもしれない。 が、ここで前の記憶を取り戻した。打ち止めを救う手段は『治癒』だけではない。それは、 「第二の手段だ。禁書目録を呪縛から解放し、彼女から完璧な治療法を聞き出すんだ」 5 禁書目録。エイワス、上条と一方通行の力の及ばぬ強者達が示した最大のヒント。ここまでの パズルのピースの欠片だけでは人名なのか、書物の集積かもわからぬ得体の知れない言葉だった。 しかし、その詳細を今一番心底から望んでいた。何しろ打ち止めの命脈に直接関与する大きな意味を持つ。 それを知っている人物が目の前にいる。あまりの衝撃に目眩が思わず走った。都合の良さに腹を抱えたい。 「学園都市に属す人間では、一部の例外を除けば意味不明としか形容出来ないだろうな。 だが『こちら側』では現在、最も着目されている存在でもある。……だからこそ手を付け難くもあるが」 「待て。オマエが言ってる禁書目録ってのはコイツと関連性はあンのか?」 と、懐から拳銃を除けて一枚の拉げた紙を引っ張りだす。それに書かれた文字列を読み取らせた。 Index-Librorum-Prohibitorum° 上条が一方通行に残した、禁書目録の意を含む単語の羅列。 これが繋がるのなら目指す道の一つが浮き彫りになる。それに対してオッレルスは賛意を感じたようだ。 「ああ。それこそが鍵だ。これは禁書目録の個人名とも言い換えられるがな。よく手に入れたな」 「個人名?超能力名じゃねェのか?」 事の拍子に乗って馬鹿げた解釈を吐いてしまったが、先刻学園都市とは関係無いと断言されたばかりだ。 それを知っていたエイワスとは何だったのか。第一上条がこんな情報を見聞きしていたのもおかしい。 科学には幾千もの知識の引出しを構えている一方通行だが、 オッレルスの言う『こちら側』への理解は素人同然だった。 だが、遂に禁忌の扉をノックしてしまった。 そして知る。掌握の手から溢れ出かねない、かつて所属していた世界を外藩へと退かせる智識を。 切れ筋の跡が辛うじて見受けられるオッレルスの唇から発せられる『こちら側』の世界の概要。 それは一方通行が心得る既知の常識とは、あまりにも懸け離れた物だった。 天地が反転したのか、と忌まわしい錯覚が一方通行の全身を張り巡る。理屈はわかる。道理は通ってる。 むしろこの説明によって埋没する疑問の方が圧倒的に多い。 打ち止めを侵したウィルスの名称『ANGEL』、海原に感じた重圧、 垣根帝督の最後の呟き、エイワスの現出、 偶然回収した羊皮紙、襲撃者達の氷撃を『反射』した時に生じた七色の光。 あの黒い翼が発現した原因。 科学の枠、いや学園都市がひた隠しにした未知の現象全てに納得がいく。 「は、はは」 笑いが止まらない。白く、白皙し、白禍した一方通行は、自らを白痴と罵った。 学園都市最強の超能力者の頂点に君臨する彼は、天上から見下ろせば無知無学な赤子同然だったのだ。 気付くチャンスなら今日に至るまであった筈なのに。 例えば土御門や海原が稀に自分の能力や認識を語る時にも魔術、の一言が混じっていた。 彼らは俺を裏で笑っていたのか?闇を喰らい闇に生きるとほざいても真の闇を知らない愚か者だと。 『グループ』に在籍していたあの時期に問いつめれば、彼らも禁書目録について話しただろうか。 禁書目録。求めて探して掴み取った情報はとても簡素な物だった。 10万3000冊の魔導書、『原典』の知識を一字一句正確に記憶する少女。 インデックスと自称し、白い修道服(『歩く教会』と言うらしい)を纏うシスターだという。 (インデックス……?聞き覚えがあンのは記憶違いか?) 衝撃を無理矢理押し込めて、大雑把な追想を行うと答えは自ずと出た。 ハンバーガーを食い漁り、恩返しを勘違いし、 『一字一句正確に』バッテリーの正式名称を復唱したあの修道女か。 嘲笑した反動だろうか、今度は愉快な苦笑が芽生えて、あんな近くに鍵があった情実が馬鹿らしくなった。 だったら、そいつの頭根っこを引っ張ってでも打ち止めの治療法を教示してもらおうかと 思った境に、今度は世界情勢の現状にまで話が進んだ。どうやらそう簡単に聞き出せる状況でないらしい。 「今、禁書目録は自己制御を奪われ、イギリスの聖ジョージ大聖堂に隔離されているとの事だ。 呪縛を解くには彼女の意識を操作する遠隔制御霊装を破壊するしかない」 「つまりはその霊装とやらを保有してやがる外道を微塵に料理しちまえばいいワケか」 「だが、その外道もそれ相応の実力者だ。現時点でそいつを打破しようと動く一派も尽力しているが、 どうも成功にまでは至らないようだ。右方のフィアンマ、今は名前だけ知っていればいいだろう」 なるほどね、と頭のメモに書き殴っておく。面倒な道程が待ち構えているのには腹が立つが、 一方通行の気はむしろ晴れていた。目的が一筋に限られて、気分が高揚してくる。 「まァ、ヤル事山積みだっつーのもこの世の尋常なンだろォな。そいつが『原典』とかいう 雑誌の立ち読みにどんな魅力を感じてンのにもカスっぱちな興味があるが、戦争引き起こす代償とは 釣り合わねェ。ガキ救ったら世界も平和になりましたとか爆笑モンだな」 久々に冗談を走らせる余裕が出来た。それでも本筋は変わらない。 打ち止めのいる光の世界、それを乱す奴なら率先して潰してやる。 あのシスターも、そこにいるべき人に決まってる。 だったら両方に救済の手を差し伸べるのが一方通行の生き様だ。 「そのフィアンマっておめでた野郎のいる場所を探すのがまず第一歩か」 「そうだな。だがもう夜も遅い。明日まで待てるか?」 短時間で済むと番外個体に嘘をついたが、確かに太陽が頭を何時出してもおかしくない時間になっていた。 仕方ない、か。とドアを抜けて廊下まで歩き番外個体の様子を確認したら、 壁に凭れながら寝ていた。緊張感の無い奴だと思いつつも、自室に戻るオッレルスを見届けながら 毛布を掛けてやった。 「……風邪でも引いたら即置き去りにすンぞ」 と苦言を洩らしても、本当は連れて行くつもりでいた。息が浅い。まだ睡眠に入ったばっかりだ。 自分なりに話を聴いて、役に立ちたかったのかもしれない。少しこいつへの抵抗感が払拭された気がした。 一方通行自身もベッドに横たわる打ち止めを視界に入れつつ、徐々に微睡む眠気に従っていった。 5.5 今買ってるコーヒーに飽きた。最後の一滴が舌に潤いと苦さを与えた際にそう確信した。 ソファーに横たわっていた一方通行は今飲んでいた飲料の空き缶をゴミ箱に投げ捨て、 床に倒してあった現代的なデザインの杖を地面と垂直に立てて直立し、玄関へと向かった。 刺激的な匂いが鼻に付く。寂れていた筈のキッチンは今や選抜きされた食材と 使い込んだ調理具が並んでいる。それらを手に取り料理を進める茶色の毛髪の女性を横目に見つつ 外へ出た。近所のコンビ二に新商品のコーヒーが入荷した筈だ。 「堅苦しくてタマンねェな」 ジジ臭い文句を呟きつつ杖をついて前進する。晴天で日光が眩しい。紫外線を反射しようが目に焼き付く。 しばらく歩くと横道から誰かが飛び出してきた。無意味と知りつつも条件反射で電極のスイッチを入れる。 右手で触れられた彼は『反射』が適用しているにも拘らず、比重に耐えられずに横倒しになった。 杖がガシャンと鉄骨が落下したような不快音を放ちつつ地面に転がった。 接触した男がそれを拾い上げ、テカってしょうがない笑顔を浮かべつつ一方通行に手渡す。 「いやー義兄さん、マジですいません。この『御坂』当麻と不幸を共有しちゃうのも嫌ですかねぇ?」 ツンツン頭の男は学園都市最強の怪物だった彼に軽口を叩く。ハァ?と一方通行は口が開いてしまう。 「オマエを義弟と認めた覚えが無い」 「あっー!この人、未だにツンツン態度が途切れてない!俺そんなに嫌われてるの!?」 能力使用モードを解除しながら再びコンビ二を目指す。関わったら負けだ。 「いや、でも口を訊いてくれるだけ有難いかなーとも思うワケですよ。最初は顔合わせたら ちゃぶ台やら電灯をぶん投げられちゃって、もうこの人俺との姻戚関係を人生の汚点と考えてるんじゃ ないかと思う度に涙が滝の如く噴出して……って無視ですか!?耳ほじってるし!」 足が自然と早くなる。時間の無駄は所詮損だ。男はそれからも「これはもうDVの域だよ……」とか 「家内に相談しようかな……」などと呟いている。絡んでほしくて仕方ないようだ。 心底怒りを込めて真正面に立って怒鳴った。 「あのなァ!何度も繰り返すが、俺と同居してンのはあくまで妹達であって、オマエの家庭とは 何の接点もねェンだよォ!俺はオマエの義兄じゃねェ!親戚面してンじゃねェぞコラ!」 が、御坂当麻は真っ向から向かい合って、 「そんなに恥ずかしい事じゃないって俺も何度も言ってるじゃないか!妹達も美琴の『妹』に かわりないだろ!?だったら家族だと誇って当たり前だ!血?体裁?まだそんなの気にしてるのか!?」 言い合うとすぐこれだ。こっちが口火を切っても、必ずペースを奪われる。 「そりゃ過去にも色々あったさ!でも大切なのは俺達が勝ち取った『今』だろ!手を取り合って 助け合わなきゃ、また昔みたいな争いになっちゃうだろ!?第一、いがみ合ってるのは俺と 義兄さんだけじゃないか!」 「だからその義兄さんってのをやめろっつってンだよォ!」 あっという間にヒートアップする二人。その内に民衆が集まってきてザワザワとひしめき合う。 それに一足先に気付いた一方通行は嫌々矛を鞘に戻し、周りを睨んで人を払った。 今度こそコーヒーを買いに行こう。とまた歩行を始めると、 「第一位~!お財布忘れてるよ~!」 「またあの人と言い争ってるし!いい加減、過去は水に流して欲しいってミサカはミサカは御坂家の 安穏をもう一度祈ってみたり!」 声域が全く同一かつ、一方通行の『嫁と娘』が夏に見合った服装を靡かせながら坂道を駆けて来る。 顎が外れそうになるのを空いた左手で押さえつつ、ハァ、と重い、重ーい溜息を深く吐いた。 その様子を確認した当麻が二人の助力を期待しつつ、状況の一変を狙う。 「あ、義兄さんお金持ってないんですね?だったら俺がタダで貸しますよ! 財布持ってきてくれた二人には悪いけど、ここは義兄弟の親睦を深めるという大義名分に乗っ取ってど」 「なにそれ!気の使い方にも善悪があるって力説してたのあなたじゃん!ってミサカはミサカは 言動の整合性にツッコミを入れてみたり!」 「うむ、でもミサカはあなたの作戦は意外と的確だと言わざるを得ない。 金の切れ目が縁の切れ目なら、金の繋がりは縁の安寧だとも言えるよね!」 「……オマエらそこまでして俺を懐柔させたいワケか?逆に癇癪玉が破裂しそォだぞ……?」 正直さを追求して、ついうっかり文句を滑らせたら、かえって三人の説得がエスカレートした。 「また怒って破壊活動か!?俺にあたるのは良いけど周辺への被害、いや、自分の保守のために ミサカ達の思いをこれ以上無下にしようっていうなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す」 「この人は悪くないし、あなたを一番心配しているのはこの人なんだよって客観性を捨てて 涙を浮かべてみたり……ってミサカはミサカは本気で悲しみを背負ってみる」 「第一位は素直になってほしいな。ミサカは知ってるよ?この人が仕事でヘマした時も 第一位がフォローに回って、謝りの電話を代わりに深夜にかけ続けたのを。 本当は家族として認めてるんだよね?」 あのな、と本心を述べようとさすがに思い、ただ俺は義兄さんと呼ばれるのに羞恥心を感じているだけで 普通に一方通行と言い換えて欲しいだけなんだ、といったニュアンスを伝えようとしたら、 「……ほぉおー。どうやらまたこの二人にお灸を据える必要があるようねぇ……?」 『御坂』当麻、打ち止め、番外個体の背後から、重圧を超越した色濃い気配が二つ飛来してきた。 三人の動きがビクゥ!と石像の如く静止する。そしてすぐグダダダダと鐘の様に小刻みに振動していった。 「これ以上おいたが過ぎるようなら、即刻断罪を執行しますとミサカは最後の警告を腹黒く押し通ります」 一方通行だけがその鬼気迫る激情を直視した。あいつの恐妻とその姉妹が 正に世界の終焉を開闢させる瞬間を。歯が小刻みにガタガタ鳴る。 『反射』を展開しても耐えられるかどうかわからない攻撃を察知して、 一方通行はただただ汗と血の匂いに怯えるが故、底知れぬ恐怖に震える指先をスイッチに持って行った。
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プロローグ~とある少年の追憶Ⅰ~ いつからだろうか?自分と他の人が違うと気づいたのは。 聖堂の中には沢山の僕と同じくらいの子供たちがいた。 空いている席に座った。みんな何かを頑張ってやっていた。 隣に居た僕よりも子供な赤い髪の男の子が苦労して小さな火を蝋燭に灯していた。 何度呪文を唱えても何も起こらない子がほとんどだった。 きっとその子には才能があったのだろう。 魔術。それは才能が無い者たちが才能ある者と同じになる為の方法。 しかし、結局は才能の差が出てしまう。 灯りを灯したその子は自慢げに笑っていた。 ボクもやってみようと思った。 最大主教様が教えてくれた通り紙に文字を書く。《K(カノ)》意味は火(ひかり)。 そして小さく唱える。 「優しき火よ、汝の役割は月夜を照らす灯りなり」 紙は瞬く間に燃え上がる。 火は炎となって燃え広がっていった。 炎は全てを燃やそうとしていた。 その時ボクは気づいた。 自分が周りの子達と違う事に。 炎はまるで祝うかのように燃えていた。 新しい化け物(聖人)の誕生を祝うように…。 とある魔科学の幻想創造~イマジンクリエイト~
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【種別】 超能力 【元ネタ】 Mental =「心の、精神の」 Out ≒「外的」「流出」「暴露」 【初出】 「精神を操る常盤台の超能力者」としては一巻 名称・詳細の初出は十六巻 本格登場は超電磁砲第四十一話 【解説】 【効果・特性】 【リモコンについて】 【弱点】 【判明している「カテゴリ」と効果】 【解説】 学園都市第五位の超能力者(レベル5)・食蜂操祈が有する、学園都市最強の精神系能力。 記憶操作・読心・人格の洗脳・念話・想いの消去・意志の増幅・思考の再現・感情の移植・人物の誤認などなど、 精神に関する事ならなんでもできる十徳ナイフのような能力。 動作原理は『ミクロレベルの水分操作』で、 主として脳内物質の分泌、血液・髄液などの配分の制御などによって間接的に精神に干渉している。 『心理掌握』をモデルとしたファイブオーバーシリーズの試作機も存在している。 【効果・特性】 一度に操作可能な人数は洗脳の度合いで変わるが、 身体の全てを掌握する精密操作なら14人、 単純命令でオートで動かすだけなら軽く三桁の人間を同時に操作することができる。 一巻にて「触れるだけで記憶を抜き取る」との記述があったため、 かつては「能力をかけるには対象に触れる必要がある」という考察もされていたが、 実際には触れることなく、リモコンのボタンを押すだけで対象への能力使用が可能である。 能力者を使役すればその有する能力を使わせることもできるが、 操った人間の脳を介して更に心理掌握を行使するといったことはできない。 ただし木原端数の見立てによれば、 食蜂が肉体を捨てれば食蜂の意識を人から人へ次々と憑依させ続けていくことも不可能ではないらしい。 副次的な効果として食蜂に精神干渉に対する強力な耐性を与えるが、 望むなら自分自身に対して能力を使用することも出来る。 この能力によって操られた人間には、食蜂本人と同様に目に星のような光が浮かぶ描写がある。 これは単なる漫画的表現ではないらしく、 新約七巻でも食蜂が他人の体を操った際に目に星のようなものが現れる描写が地の文でなされている。 【リモコンについて】 食蜂は能力使用時にテレビやレコーダーなどのリモコンを操作しているが、 これは能力の適応範囲が広すぎてそのままでは能力の制御が難しいので、 安定して制御するために自己暗示として『区切り』が必要なため。 (結標の軍用懐中電灯のようなもの) これは扱える能力の種類が多岐に渡り、且つ強力・強大な力を誇るが故の弊害であり、 このように自分ルールで細かく区切らなければ、本人ですら能力の全容が把握しきれなくなってしまい、 コントロールが不安定になることもある。 ただし、リモコンは能力の制御手段として使っているだけであり、リモコン無しでも能力の発動自体は可能。 曰く「リモコン無しでは能力を『絶対』使えないと思い込んでいるのかしらぁ?」 過去編(中学1年生)にてリモコンを奪われた際には、リモコン抜きでも正確に読心能力を発動させている。 その少し前に襲撃を受けた際には、自身と鞄を蔓で拘束された為にリモコン抜きで能力を発動したが、 その際足に痛み(成長痛)を感じて演算に集中出来ずコントロールに正確さを欠き、 結果心理掌握の原理である水分操作を発動させてしまい、纏わりつく蔓を枯らしている。 食蜂は多数のリモコンを所持しており、能力の「カテゴリ」を操作コマンドのように各リモコンのボタンに割り当てて運用している。 彼女が普段持ち歩いているバッグはこれらのリモコンを収納・携帯するためのもの。 【弱点】 効果があるのは人間だけであり、機械や動物に対しては無力。 同様の理由で、人間のような精神構造を持たない怪物的な存在にも効果がない。 ただし新約11巻ではガードレールに触れながら、自分にリモコンを向けて 「右手で触れた物質から1年以内の記憶を抽出」という読心能力(サイコメトリー)を使用している。 このことから、「行動を制御したり操れるのが人間だけであり、機械や動物なども直接触れれば読心できる」という可能性もある。 能力の原理上、身体の水分バランスが著しく乱れている人物 (例:大量出血を起こしている怪我人)に使用すると、予期せぬ副作用や悪影響をもたらす恐れがある。 生体電流にも影響を与えているが、 これは電気を通す媒体である液体を操作して伝導効率を変更することによる間接的な干渉らしい。 そのため生体電気を直接操れる電気操作系の能力者とは相性が悪く、 特に美琴に対しては能力が無効化される(食蜂はこれを「電磁バリア」と表現している)。 ただしレベル4以下の電気系能力者には普通に能力をかけることができるため、能力が通じないのは実質美琴のみ。 美琴の方が食蜂の操作を受け入れている場合は「電磁バリア」が当然解除されているため、能力が効く。 しかし食蜂が能力を暴走させれば美琴相手でも効くが、その分デメリット力も高い。(新約22巻より) 遠隔操作されているものにも効かないため、警策看取の液化人影との相性は最悪。 また、脳内の水分を直接操作できる一方通行にも能力が効かない(ゲーム『とある魔術の電脳戦機』での描写による)。 過去の回想にて彼女に関わる研究者が頭部を覆うヘルメット状の装置を被っており、 ある程度は機械的に無効化することも可能であるようだ。 ただし、研究者らは「食蜂の能力が成長すればこの装置でも防げなくなる」と危惧しており、完全に防ぎきれる訳でもないらしい。 超能力である以上、もちろん幻想殺しで無効化できる。 しかしこの能力は脳に直接効果を及ぼしているため、右手で頭を直接触らなければ打ち消すことは出来ない。 【判明している「カテゴリ」と効果】 カテゴリ005「読心潜行」:該当人物の精神的な状態を把握する カテゴリ011「自白強要」:該当人物は指示された質問に正確に答えなければならない カテゴリ030「気絶昏倒」:該当人物を指定した時間昏倒させる カテゴリ044「物的読心」:食蜂が触った物体の過去の記憶を抽出する カテゴリ061「感覚誤認」:該当人物の感覚を誤認させる カテゴリ081「標的誤認」:該当人物を別の人物に誤認させる カテゴリ109「印象操作」:該当人物が抱く印象を操作する カテゴリ220「好悪付加」:該当人物に指定した対象に対して好悪感情を抱かせる カテゴリ330「呆然自失」:該当人物は指定された時間、時間の経過を認識できなくなる カテゴリ401「幼児退行」:該当人物の精神状態を指定した時間に巻き戻す カテゴリ433「痛覚遮断」:該当人物の痛覚を麻痺させる